2014年3月21日金曜日

#009.色の親方


親方は、冷たい雨の中、カッパも着ずに、道具の忘れ物も多かった。
世界遺産候補の目の前にある建物の色の塗り替えに際して、「大丈夫かな?」と思ってしまった。


親方は大版の重いコンクリートのサンプルを用意してくれた。
色見本帳を指しながら「これくらいのグレーを濃くできますか?」と言うと・・・。親方はだまって5つのペンキの缶から調合を始めた。
30秒くらいで、「これでどうね?」。
一発で希望の色を作ってもらった。このようなプロフェッショナルの技に支えられて、頭ヶ島の文化的景観が保たれていく。
次の瞬間、「ここは魚のよく釣るっとよ!」。
親方は、笑っていた。

2011年1月7日金曜日

#008.「春を待つ棚田」

2011年、明けましておめでとうございます。
ランドスケープの仕事は、地域づくり、まちづくりと一体であってこそ、世の中の役に立つものだとつくづく思う。
九州・沖縄の各地の風景は、「生き生きしている」とばかりはいえない。私たち「よそ者」は、地域の生業(なりわい)などと簡単に言うけれど、その仕事が本当に生き生きしていなければ、風景もしぼんでしまう。
写真は、からつ蕨野の棚田。生き生きと続けられる仕事の舞台は、ゆっくりじっくり、そして堂々と春を待っている。
重要文化的景観の選定を受けて、今年4年目を迎える。

2010年6月28日月曜日

#007.「海の神さま」

北島三郎の「祭り」に出てくるような、海の神さまはどこにおられるのか?
五島列島の海は、本当に美しい。
ここの島影や空と海の青さは、おそらく空海や遣唐使が往来した時代から変わっていない。
そして、たくさんのキリスト教会がたてられたところ。

心が洗われ、何かに拝みたくなる、五島の風景。
「祭り」のように、元気が出てくる。




2008年11月7日金曜日

#006.「島人の宝」

世界一の透明度を誇る海は、渡嘉敷の文化・自然の象徴である。

その美しさは、単に美しいというだけでなく「島人の宝」として、外部からの開発計画に地元から異を唱え、結果として保たれている。

ゆっくりと流れる時間の心地よさ。デジタル機器に追い回されている現代人の逃げ場はこのあたりまで来ないと見つからない。
都会人にとって非日常、地元の人にとって日常の風景。
最近のマンザイがボケとツッコミが自在に入れ替わるのと同じように、日常と非日常とが自在に入れ替わる、ゲストとホストが自在に入れ替わることが望まれているのだろう。
そのニーズが「ツーリズム」を21世紀のグローバルフォースにまで押し上げている。

感性とは、モノの価値に気づく感覚・能力のこと。価値観混乱の時代を生き抜くには、この感性をいつも磨いていかなければならない。





















2008年8月5日火曜日

#005.「どこまでも」続く風景

ほとんどの家のテレビがまだ白黒だった頃、タイヤのCMに「どこまーでも行こおー!」という歌があった。
そのフレーズを想い出させる環境が英国にあった。
The Lakes  (湖水地方)。

文字どおり山と湖を背景とする美しい農村風景が「どこまでも」続き広がっている。
目の前の景色に見とれているうちに、山や丘のその向こう側の風景がみたくなる。
そしてその欲求を満たしてくれるのが Public Footpath!

ある人はリュックを背負い、ある人はマウンテンバイクで、ある人は軽装で、それぞれの「どこまでも」の時間を楽しんでいる。

九州各地の「文化的景観」の所在と重ねて考えると、身近な農村風景も新たなレクリエーションの舞台として地域の活性化に欠かせない宝だ。
その可能性こそ「どこまでも」続いている。













2008年6月4日水曜日

#004.夜明けの庭

国の特別名勝でありながら、午前4時にオープンする庭園があるとは知らなかった。
「それならば是非。」という有志5名でタクシーに乗る。
運転手さんも「本当に開いてるんですか?」と。














着いたところは兼六園。
門を入って(早朝は無料)、琴柱灯篭付近を目指す。
まだ真っ暗。日の出の時刻は444分。
空が少しずつ白くなり始めると、池の水面は刻々と変わる表情を映しだしてくれた。
桔梗などの花々と新緑が美しいこの時期は、昼間だと観光客でごったがえしている。
早朝の静寂を楽しみたい市民のために開放され、園内でお茶や食事を楽しんで過ごすこともできる庭。
大規模庭園の本来の活用の姿を、ここにみた。

夜明け前














昼間











カキツバタのある流れ



















2008年5月7日水曜日

#003.うりずん

木々の芽ぶきが活発になり、心地よい南風(はえ)が渡るみずみずしい季節のことを、沖縄では「うりずん」と呼ぶ。九州福岡では五月晴れの頃が肌身の感じ方としては最もそれに近い。
「これが本当のアカバナーですよ。」と中城村で在来種のハイビスカスを見せてもらった。街路樹やリゾートエリアで見なれた外来種と比べると花が小ぶりで下向きかげん。だけど葉も花もキリッとしていて力がある。
「沖縄の気候もおかしくなってるサ。」と曇天続きで涼しい5月のスタートに違和感を感じているタクシードライバーのおじさん。
グスク道(歴史の道)の拠点の1つ、中城村の東太陽(アガリティーダ)橋を見て感動。13年前に描いていた計画通りに出来上がりつつある。
ランドスケープの仕事の成果が表れるのには時間がかかるけど、歴史的環境に関連することはせかせかしてはいけない。
少なくとも600年以上前から宿道(すくみち)として使われ続けてきた道。
これから何百回と「うりずん」を数え、歴史を刻む力を発する道となりますように。




























グスク道(歴史の道)